ダニ道楽blog

趣味で撮影している生物の写真がメインです。学術的な要素は薄味になります。ダニ類中心になりますが、他の生物の写真も投稿していきたい所存。

クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)の雌雄比較

わが家でクロゴキブリのオスを採集。
前回のメスと比較しました。
 
まずは全体を比較します。

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背面です。

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オスのクロゴキブリは翅に隠れた腹部が細く、翅の左右から見えることは有りません。
一方でメスは腹部が左右に広く、翅の左右から腹部が見え隠れします。

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覆面です。

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尾部を見れば容易に区別できます。
メスの腹部後端は大きく左右に割れており、ここから卵鞘を産み落とします。
一方でオスの腹部後端には、前回紹介した尾角よりもさらに小さい尾突起と呼ばれる突起があります。
 
(メスも幼虫の段階では尾突起を持っている旨を林龍さんに教えて頂いたので、別の機会に幼虫も撮影してみることにしましょう)
 

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尾突起の深度合成写真です。
表面には物理センサーの剛毛状感覚器が疎らに生えているだけです。
 
幼虫を採集した時はまた尾突起を撮影しなきゃですね。
 
 

参考文献:

BSI生物科学研究所

http://bsikagaku.jp/

http://bsikagaku.jp/insect/cockroach.pdf

クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)の微細構造

2021年11月、わが家に侵入していたクロゴキブリを採集。
微細構造を撮影しました。
Twitterに上げたまま流れてしまうのも忍びないので、過去に撮影したぶんもまとめて掲載します。
 
まずは全体を見て見ましょう。

クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)

クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)

尾突起が無く、腹部が広めなのでメスです。
雌雄の差異はオスを捕獲した時に改めて比較してみましょう。
 

クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)

上半分拡大。

 

ここからは各部位の写真です。 

クロゴキブリの爪間盤と褥盤

クロゴキブリの爪間盤と褥盤

これは後脚の深度合成写真です。

爪間盤は吸盤状になっており、跗節には4枚の褥盤があります。

これらの吸着力によりゴキブリは垂直な壁面でも高速に走り回ることができます。

 

 

クロゴキブリの尾角

尾角の背面です。

 

クロゴキブリの尾角

クロゴキブリの尾角

尾角の腹面には太く短い剛毛状の感覚毛がたくさん、細くて長い感覚毛が疎らに生えています。細長い方の感覚毛は生え際の形状が ◎ のような形状に盛り上がっています。(後者の感覚毛は触覚には存在しません)

尾角は微妙な気流を検知するための器官であり、彼らの並々ならぬ俊敏性の生命線です。

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(念の為、尾角の位置を図示)

 

以下は3月に撮影した別個体の触角です。

鐘状感覚子

鐘状感覚子

鐘状感覚子は外骨格の「しなり」や圧力を検知するセンサーで、触角の基部に近い節に多く見られます。

 

剛毛状感覚器+短毛状感覚器

剛毛状感覚器+短毛状感覚器

触角の中間ぐらいの節。

剛毛状感覚器に加えて、微細な感覚毛が無数に生えており、これらが化学物質を検知する短毛状感覚器です。

 

以下は通常のマクロ撮影。

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脱皮中のクロゴキブリを撮影できたので掲載。

(何か見つけたら追記するかもしれません)

 

参考文献:

BSI生物科学研究所

http://bsikagaku.jp/

http://bsikagaku.jp/insect/cockroach.pdf

 

公益社団法人 日本農芸化学

https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=858

イソテングダニ(Neomolgus littoralis)

2021年5月上旬

千葉県某所の泥干潟にて、テングダニを数十個体確認。

サイズは1.5mm程度でしょうか。

群やコロニーを形成することはなく、バラバラに歩き回っていました。

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1. 海水を被る地帯に生息していたこと

2. 触肢先端節が充分に長いこと

3. 触肢先端の3本以上の毛が長いこと

(他、日本ダニ類図鑑の記述と矛盾しないこと)

以上を持ってイソテングダニ(Neomolgus littoralis)であると同定できました。

海岸にはヒメイソテングダニも生息していますが、あちらは触肢先端の節がもっと短いので、高倍率で撮影すればわりと容易に区別できます。

 

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主に海岸のトビムシを捕食して生きているようです。

この、鋏角でブッ刺されているのがトビムシです。

 

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歩行速度は、ビラハダニ以上、ハモリダニ未満ぐらいです。

捕食中がいちばん撮影しやすいタイミングでした。

 

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テングダニというだけ有って、顎体部先端が強く突出しています。

さて、昨年も油壺の海岸でイソテングダニを見つけているので、本種は比較的探しやすいのかも知れません。

大型で目立つ色をしているので、ぜひ皆さんも探してみてください。

ヒメイソテングダニも見つかるかも知れません。

マメクロアブラムシ(Aphis fabae)

2021年4月 千葉県(江戸川沿いの土手の下)

マメクロアブラムシ(Aphis fabae)を複数発見。

本種がカラスノエンドウとギシギシに寄生しているところを採集しました。

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アブラムシ入門図鑑を見て最初はギシギシアブラムシ(Aphis rumicis)の可能性を考えましたが、書籍に掲載されている写真が間違っていてマメクロアブラムシの写真が載っていたようです。

版元の全農教さんが本件を含む正誤表を出しています。

アブラムシ入門図鑑 正誤表

http://www.zennokyo.co.jp/book/abnz_x.html

 

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背面から見て、以下のの違いで同定できます。

・マメクロアブラムシの触角は第5節の途中から先端までが暗色

・ギシギシアブラムシの触角は第3節の途中から先端までが暗色

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参考文献:

アブラムシ入門図鑑:

http://www.zennokyo.co.jp/book/musi/ab_nz.html

 

ダニは良いですぞ:個性豊かなダニたちの紹介

0. 前置き

この記事は、バーチャル理科おねえさん YUKIYAさんのアドベントカレンダーに寄稿します。

これを機にblogのタイトルを「ダニ道楽blog」に改め、放置気味だったblog更新を再開しようと思います。

今回は、2020年までのVTuber 八切ヤツメの活動を振り返りつつ、私の心を掴んで離さないダニの面白さをお見せしていきます。

 

1. 謎多きダニにアマチュアが挑む意味

ダニはクモと同じ節足動物 鋏角亜門 に含まれます。

クモの遠い親戚ぐらいに思って頂ければ良いです。

鋏角亜門の中でのダニの分類学的な位置付けは今でも議論が続いており、確定していません。

また、そもそも日本においてダニが断片的な研究ではなく「ダニ学」として体系的に研究され始めたのは1960年以降であり、他の生物に対して大きく遅れを取っています。

さらに、肉眼での観測が難しいことも合間って、未発見の種も多く、毎年のように新種が報告される等、種レベルでも多くの発見が続いています。

さらにさらに、日本国内でも約2000種程度のダニが存在し、当然、それらの種ごとの細かい生態をみっちり研究するには人手が足りていません。

以上のように、ダニにはまだ不明点が多く残っています。

つまり、私みたいなアマチュアが活躍する場としてはこれ以上無いって事だあああ!

 

2. ダニの大分類に沿って、ダニを見て行こうゼ

ここでは便宜上、ダニを「ダニ目」という分類階級にまとめた場合を想定して話を進めます。

ダニ目の下位分類として、ダニ屋をやっていれば何度も登場する「亜目」単位での分類が登場します。

日本国内では、下記の5亜目が存在します。

2-1. マダニ亜目(大型で動物の血を吸うダニ)

今のところマダニは専門外なので写真は無しです。

この辺は来年以降の課題ということで。

2-2. トゲダニ亜目(吸血性または捕食性がメインのダニ)

トゲダニ亜目 ヤドリダニ科の一種

トゲダニ亜目 ヤドリダニ科の一種

トゲダニは見た目がそっくりなダニが多くて、このようなマクロ撮影では科レベルの同定すらも難しい事があります。

次は深度合成撮影で別のダニを見てみましょう。

トゲダニ亜目 ウデナガダニ科 ウデナガダニ属の一種

トゲダニ亜目 ウデナガダニ科 ウデナガダニ属の一種

ウデナガダニの仲間は土壌中の線虫を捕食することで知られています。

この恐ろしく長くて筋肉に乏しい腕は、センサーのような役割を果たすようです。

土壌中には多くのトゲダニ亜目の仲間が生息していますが、我々の住む家にもマヨイダニ科などの屋内性トゲダニ類が侵入してきています。

 

2-3. ササラダニ亜目(硬い外皮で身を固めた分解者がメインのダニ)

フリソデダニ科の一種

ササラダニ亜目 フリソデダニ科の一種

ササラダニ亜目は土壌中に多く存在するダニであり、ほとんどが生態系の中では分解者としての役割を果たしています。

種数はべらぼうに多く、とにかく同定しきれないダニです。

 

かつて私が発見した新種のダニも、ササラダニ亜目の一種です。

新種記載論文はもう少々お待ちを。(新型コロナのせいで色々遅れてます)

 

さて、地味な子が続きましたが、見た目が派手なササラダニもいます。

ササラダニ亜目 ジュズダニ科の一種

ササラダニ亜目 ジュズダニ科の一種

ジュズダニ科の一種です。

全身からワックスを分泌し、脱皮した後の殻を背中に固定しています。

こんな格好いいダニを現実に見てしまったら、辞められるワケが無いですよ! 

 

2-4. ケダニ亜目(タカラダニやハダニなどを含む)

ケダニ亜目 タカラダニ科 アナタカラダニ属 カベアナタカラダニ

みんな大好きカベアナタカラダニです。

春先から夏頃にかけて、コンクリートの壁を走り回っているアイツらです。

時々、こうやって植物の汁を吸ったり、花粉を食べている様子が観察できます。

カベアナタカラダニの幼虫

ナガミヒナゲシの雄しべに群がって花粉を食べています。

 

次は、私をこのダニ沼に沈めたダニです。

ケダニ亜目 ハダニ科 ビラハダニ属 クローバービラハダニ

ケダニ亜目 ハダニ科 ビラハダニ属 クローバービラハダニ

クローバービラハダニです。

本種はメスだけの単為生殖で増殖し、「オスは自然界に存在しない」とされていました。

しかし、2019年3月、偶然にも私はクローバービラハダニのオスを発見し、その雌雄が交尾する様子を撮影するに至りました。

クローバービラハダニの交尾

クローバービラハダニの交尾

その後、2020年11月、植物寄生ダニを研究している流通経済大学の後藤先生に同定していただき、クローバービラハダニのオスである旨が確定しました。

クローバービラハダニのオス

クローバービラハダニのオス

本件の続報は、2021年3月ぐらいに、なんかします。

はい、まだ言えないので、はい、なんかします!

こういう発見があるから、ダニは面白いんですよ!!

 

2-5. ニセササラダニ亜目(祖先的な特徴を多く含む、比較的新しく設けられたグループ)

ニセササラダニ亜目 ニセアギトダニ科

ニセササラダニ亜目 ニセアギトダニ科の一種

ニセササラダニ亜目は、ケダニ亜目とササラダニ亜目の中間のような特徴を持ち、背中の体節構造が退化していないなどの祖先的な形質が残っています。

体長は0.3mm程度と極めて小さく、動きは素早いので撮影・採集ともに苦労が絶えません。

来年以降、もっとも率先して採集していきたいグループです。

 

(2-6. コナダニ団)

コナダニはかつて、コナダニ亜目として「亜目」レベルの系統と考えられていました。

しかし、後の研究でササラダニ亜目の一系統である事が判明。

文献によってはコナダニ小目などの分類階級が割り振られている事もあります。

コナダニ亜目 ニクダニ科 イエニクダニ

コナダニ亜目 ニクダニ科 イエニクダニ

コナダニ亜目 ニクダニ科 イエニクダニ

コナダニ亜目 ニクダニ科 イエニクダニ

天 使 降 臨 !

コナダニの仲間も自然界では分解者が多いのですが、植物を食害するコナダニも多く報告されています。

イエニクダニは真冬の窓際のホコリの中を好むダニです。

探してみましょう。超絶可愛いです。

 

3. 最後に!

いかがでしたか?今回はダニについて調べてみました。まだ分からない事が多いですが、これからもダニから目が離せませんね。

はい。

かなり駆け足でしたが、個性豊かなダニたちの姿を見ていただけたと思います。

ハモリダニ

ケダニ亜目 ハモリダニ

今回の企画を通して、ダニの面白さが皆様に多少なりとも伝わったなら幸いです。

とは言え、実際のところ私がダニを追い回している動機の大半は「楽しい」「面白い」「こいつら格好いい」といった気持ちによるところが大きいです。

私自身が誰よりもダニ学を楽しみながら活動していると言って差し支え無いでしょう。

まだまだ私は語りたいのですが、そういう情熱は日々のブログ更新やVTuber活動に傾けようと思います。

では、新種ダニの件とクローバービラハダニ♂の件、

続報を待たれよ!!

 

ニキビダニの一種(Demodex sp.)

撮影日 2020/05/24 

私自身の眉間の皮脂から採集

 

かの有名な(?)ニキビダニです。

腹面の写真を深度合成しました。

大きさにして0.3mm弱でしょうか。

小さく透明なので肉眼では全然見えません。

しかし、採集した皮脂を実体顕微鏡(x50)でじっくり観察していれば結構動いてるのが分かりました。

 

まずは腹面の写真をご覧いただきたい。

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Demodex sp.

こんなに小さくても、しっかり8本の脚が確認できます。

 

次に背面。

この向きだと表面張力で集まった皮脂が写り込んでしまいます。

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Demodex sp.

腹面・背面とも、生物顕微鏡電子顕微鏡での写真しか出回っておらず、このような深度合成の写真は見受けられませんでした。

 

人間に寄生するニキビダニは二種類おり、今回の個体はどちらなのか判断に窮したので属名までの同定に留めます。

成長段階も不明ですし、さらなる採集と撮影を継続します。